改めて「ソフトパワーとは何か」

執筆者:田中明彦2005年11月号

 ソフトパワーという言葉がある。少子高齢化の進む日本のような国は、ハードパワーではなくソフトパワーを充実させなければならない、などと言われることもある。しかし、ソフトパワーとは何かと考えてみると、結構ややこしい。いったい、ソフトパワーを持つためにはどうしたらよいのか。とくに日本にこれを当てはめたら、何をしたらよいのか。 この言葉をはやらせたのが、カーター政権やクリントン政権で米政府の高官も経験したハーバード大学のジョセフ・ナイ教授であることはよく知られている。『ソフト・パワー』という著書も翻訳されている(日本経済新聞社刊)ので、お読みになった読者もあるかもしれない。 原理的にいうとナイ教授の説は明快である。ソフトパワーと対比されるハードパワーとは、報奨(アメ)や懲罰(ムチ)の可能性を見せつけることで相手を動かす力である。軍事力でもって核攻撃を抑止したり、経済援助で自らの陣営に引き入れることなどが典型的な例である。これに対してソフトパワーとは、相手の考え方自体に働きかけることによって、そもそもこちらの困るようなことを相手が考えないようにさせたり、こちらの望むようなことを相手が自発的にするようにしてしまうパワーだとされる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。