日本を見下す元高級紙NYタイムズ

執筆者:徳岡孝夫2005年11月号

 町に新しいビルが建つと、建つ前そこに何があったか、なかなか思い出せない。たとえば霞が関ビル。昔あそこには何が立ち、どんな風景があったか? 都市生活者は新しいビルの前にたたずみ、失われた記憶を取り戻そうと試みて途方に暮れる。 桑田変じて滄海となる。まだ朝日新聞社が数寄屋橋にあった頃の話である。私は頼まれて「ニューヨーク・タイムズ」に何回かコラムを書いた。パソコンやファクスが発明される前だから、毎回タイプライターで打ったのを持って朝日新聞社へ行った。裏のエレベーターで六階だか七階だかに行くと、NYタイムズの支局がある。私の記事は、そこからテレックスでニューヨークへ行ったと記憶している。 何たる幸運か、タイムズ支局は、隣の日劇の屋上と同じ高さにあった。一段高く、鉄の階段を昇ったところに日劇ミュージックホールの風呂場があるらしい。いま舞台に出て裸で踊ってきた子らが、全裸にバスタオルを巻きつけた格好で現われ、鉄の階段を踏んで風呂場に消え、やがて湯上がり姿で現われる。 伸び伸びした姿態。ひと踊り踊った後の解放感。秘部はタオルで隠しているが、見せてゼニの取れる肢体は丸出しである。白日の下、キャアキャア言いながら階段を昇り降りする嬌声も手に取るように聞える。

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