イラク新憲法案が十月十五日の国民投票で承認されたことで、新国家はいよいよ十二月十五日までに行なわれる新たな国民議会選挙と、十二月末までに目指される本格政権の設立という最大のヤマ場に向かう。憲法の制定によってテロが止むわけでもなく、懸案事項への対処は先送りにされたが、国家再建プロセスの一つの重要な通過点を過ぎたことは確かである。
 国民投票の結果を州(muhafaza; province)ごとに見ていけば、宗派・民族間で明確な立場の相違が浮かび上がる。イラクを構成する十八州のうち、シーア派が住民の大半を占める南部・中部の九州や、クルド人主体の北部三州では九四―九九%という圧倒的多数が賛成票を投じた。バグダードでは七七・七%、キルクークでは六二・九二%が賛成した。
 これに対して、スンナ(スンニ)派が多数を占める中西部四州のうち米軍・イラク政府部隊と武装組織との戦闘が激しいアンバール州とサラーフッディーン州で反対票が三分の二を超えた。新憲法案は「三州で三分の二以上の反対票」があれば成立しないという条件だった。ニネヴェ州とディヤーラ州で反対票が三分の二に届かず、否決は辛うじて回避された。
 スンナ派の強い反対姿勢が明確になったものの、今年一月末の国民議会選挙でスンナ派の大多数がボイコットしたことに比べれば大きな前進だろう。現行の政治プロセス全体を否定するのではなく、参加して反対票を投じることで意思表示をし、今後の発言権を確保しようとする動きとして希望を抱かせる。もちろん、スンナ派の多数の反対にもかかわらず制定された憲法とそれに基づく体制に対する疎外感や敵対意識が醸成されていく危険性も否定はできない。

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