御手洗経団連に出された「重い宿題」

執筆者:喜文康隆2005年12月号

「交換価値は、一定の関係のもとで生産している人口を想定し、またある種の家族や共同体や国家等々を想定する。すでにあたえられている具体的な生きた全体の抽象的で一面的な関連としてのほかには、どうしても実在のしようがない」(カール・マルクス『経済学批判』)     *「奥田さんと小泉さんは似た者同士ですね」。奥田碩日本経団連会長の後継として、来年五月に御手洗冨士夫キヤノン社長が就任するとマスメディアが報じた十月中旬、ある財界長老がつぶやいた。 この長老は「御手洗新会長」に反対というわけではない。だが御手洗を指名した奥田に、従来の財界的手法とは違うものを感じ取ったのである。意地悪くいうならば、「サプライズ人事」を多発し国民の心を掴みにいく、ポピュリズムの臭い。 人選の最終局面で候補は三人に絞られていた。奥田と同じトヨタ自動車の張富士夫副会長、日立製作所の庄山悦彦社長、そして御手洗である。しかし奥田自身はある時期から、張を後継に選ぶという選択肢を捨てていたようだ。というよりも、トヨタがその選択肢を認めなかったという方が正確だろう。決め手になったトヨタの“総意” 自民党政治の枠から明らかにはみ出した首相・小泉純一郎を経団連が最初から全面支援できたのは、小泉と「似たもの同士」の奥田の個性もさることながらトヨタの圧倒的な存在感に因るところが大きい。デフレで多くの企業がのたうち回る中、経団連は反対の世論が強かった政治献金を復活させ、愛知万博に全面的に肩入れしてこれを成功に導いた。「小泉強し」とみて靡いた小泉チルドレンは財界にも多々いるが、奥田と小泉はこの三年、政財界両“総理”として二人三脚を続けてきた。

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