インラック政権の退陣などを要求してデモ行進する反タクシン元首相派 (C)=時事
インラック政権の退陣などを要求してデモ行進する反タクシン元首相派 (C)=時事

「民主主義の自家中毒」とでも表現すべき情況に陥ってしまったようなタイだが、この混迷情況は「タクシン」というキーワードだけでは読み解けないだろう。そこで些か遠回りではあるが、現在の混迷に立ち至った背景に検討を加えながら、改めてタイ政治の現状と将来を考えてみたい。

 

唯一の全国政党

 4つの大きな島で成り立っている日本と違い、タイの国土は地続きの1つの塊である。だが自然環境、歴史、生活文化、経済水準、産業構造など――これを敢えて風土と表現するなら、その風土の違いによって北部、東北部、中央部、バンコク首都圏、南部の5つの地域に分かれている。中選挙区か小選挙区かという選挙制度の別にかかわらず、政党もまた構造的には5つの地域を基盤にせざるをえない。来年2月の総選挙ボイコットを掲げて反タクシン運動に大きく舵を切った民主党といえども、この原則から外れるものではなく、バンコク首都圏に一定の支持勢力を持つとはいうものの、実質的には南部を基盤とする地域政党から脱することができないのだ。

 だが最近、より具体的に表現するなら、タクシン元首相が自前の政党を組織して政界進出を果たしたここ10年ほど、この原則が崩れ始めた。タクシン元首相が豊富な資金力を背景に北部と東北部に強力な支持基盤を築く一方、中部とバンコク首都圏に進出するだけでなく、時に南部の民主党の支持基盤まで切り崩す勢いなのである。であればこそ、総選挙を繰り返そうとも、現在のタクシン支持派優勢の下院勢力図を大きく塗り替えることは容易ではない。いわばタクシン支持政党のみが、その内実はどうあれ、議員構成に関する限り全国政党としての要件を備えているということだ。

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