ドーン、ドーン――時計の針が午後六時に差しかかるとき、レストランの前に置かれた太鼓を思いっきり打つ音が、静まり返ったホテルのロビーに鳴り響く。こうした光景は一カ月も続く。ここはインドネシアの首都ジャカルタにあるホテル日航。ここだけでなく、いずれのホテルもレストランの前に太鼓が置いてある。地方都市でも同じだ。太鼓を合図に、レストランを埋め尽くした客たちは、一斉にご馳走が並ぶビュッフェ・カウンターに殺到する。暖かいスープを飲み干し、照焼きチキンや蒸した車えびで山盛りの皿をテーブルに運び、食の祭典が始まる。子供たちは早食い競争。イスラム教徒にとって聖なる断食月、ラマダン風景の一コマだ。 今年のラマダンは十月五日から始まり、一カ月続いた。ラマダンとは太陰暦(ヒジュラ暦)の第九番目の月名で、イスラム聖職者が肉眼で新月を確認して、ラマダンの月が始まるとされる。クリスマスと異なり、ラマダン月や中国の旧正月は毎年変わるため、カレンダーには記載されない。スケジュールを立てるときは要注意だ。 ラマダン月はイスラム教徒にとっては神聖な月で、日の出から日没まで飲食が禁止され、あらゆる人間の欲望が抑制される。厳格な戒律に従えば、つばを飲み込むことさえ禁止されている。戒律遵守という点で、サウジアラビアは最も厳格だが、東南アジアのイスラム教徒は寛容だ。ただ、そうはいっても、公衆の面前では最低限の戒律を守らなければならない。それは飲食をしないということだ。

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