村上ファンドはなぜ小さなTOBにこだわったか

執筆者:柴田雄大2006年2月号

昨年末に仕掛けた新日本無線に対するTOBは失敗におわった。泣く子も黙る村上ファンドにも「焦り」の色が見えてきた。「何が何でも、このTOB(株式公開買い付け)を成功させていただきたい」 昨年十一月二十一日に開いた会見で、投資ファンド「エム・エイ・シー(通称・村上ファンド)」を率いる村上世彰氏の言葉には悲壮感すら漂っていた。 この日、東証一部上場の半導体部品メーカー、新日本無線を完全子会社化するために日清紡がかけたTOBに対し、村上ファンドが横槍を入れる形で対抗TOBを出した。村上氏は並々ならぬ意欲を見せていた。 新日本無線の発行済み株式の五〇%は、親会社にあたる日本無線が保有。しかし、日本無線は防衛庁に対する水増し請求事件(一九九八年)に伴う損害賠償で数百億円の資金が必要となり、本業の通信機事業に専念するためもあって、保有する新日本無線株を売却する意向を固めた。売却先は、自社の筆頭株主であり新日本無線株も二%所有していた日清紡。日清紡による友好的なTOBはすんなり実現するはずだったが、そこへ村上氏が割って入った格好だ。日清紡の提示した買い付け価格八百四十円を大きく上回る九百円を提示し、それに応じるよう日本無線に求めたのである。

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