「魔鏡」は何に使われたのか

執筆者:関裕二2014年2月10日
 三角縁神獣鏡のレプリカが光を反射して映し出した裏面の紋様 (C)時事
三角縁神獣鏡のレプリカが光を反射して映し出した裏面の紋様 (C)時事

「魔鏡発見!!」と、久しぶりに考古学の元気なニュースが飛び込んできた。

 3世紀後半から4世紀の東之宮古墳(愛知県犬山市)出土の三角縁神獣鏡を3Dプリンターで再現し、日を当てる実験をしたところ、鏡の裏面を映し出す魔鏡だったことがわかったと、京都国立博物館が1月29日に発表した。

 しかし残念なことに、厳密に言うと、これは魔鏡ではない。鏡の裏に紋様を施した銅鏡なら、ほとんどの鏡で同じ現象をみることは可能だからだ。薄くなるまで磨き込めば、鏡胎の厚さの差から目に見えないくぼみが生まれ、光が収斂し、鏡背面の紋様が映し出される。本物の魔鏡は、仏像やマリア像、十字架など、背面とは異なる紋様が浮かび上がるものなのだ。だから、発表は少しはしゃぎすぎではなかろうか。

 

「モノ」を利用した統治

 ここで見誤ってはいけないのは、この発見の本当の意味である。

 三角縁神獣鏡が映し出した映像は、原理を知らない古代の人びとを驚かせたにちがいない。そして、その様子をみてほくそ笑んでいたのが、為政者たちであった。

 三角縁神獣鏡はヤマト建国直後、畿内から各地の首長に配られた威信財で、「ヤマト連合に加わると、こんないいことがあるよ」と誘ったオマケのようなものだ。それでも、地方の首長にとっては、これが魅力だったのだろう。ヤマトが築きあげた新たな信仰形態を導入し、次々と繰り出される「人びとを驚かすトリック」を求めたにちがいないのである。

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