二〇〇六年、戌年である。 私がシリコンバレーに引っ越してきたのが一九九四年、戌年。十二支がちょうど一回りしたことになる。九〇年代後半、この地はドッグイヤー(七倍速)で物事が起こると言われていた。それも加味すると、十二支が二回りしたくらいの感覚を持つ。長く濃密な時が流れた。 この十二年でシリコンバレーの何が大きく変化したのか。 九四年と言えばインターネット前夜。九八年創業のグーグルはおろか、九五年創業のヤフー、eベイすら影も形もなかった。ヒューレット・パッカード(計測器、コンピュータ)、インテル(半導体)、アップル・コンピュータ(PC)、サン・マイクロシステムズ(ワークステーション)、オラクル(データベース)、シスコシステムズ(ネットワーク機器)といった「情報技術(IT)産業において一時代を画した企業群」の系譜に、新たにこの三社が加わることになった。 インターネット時代の覇者といえば、この三社にシアトルのアマゾン・コムを加えればよいだけだ。ネットは世界的現象であったにもかかわらず、新しい覇者四社のうち三社までがシリコンバレー企業だ。 未知の可能性めがけて厖大な数のベンチャー企業を生み、過酷な自然淘汰によって世界企業を育てるシリコンバレーの多産多死型起業家経済が、依然健在と証明されたのである。

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