アメリカ政治の見物といえば党大会だろう。四年ごとの大統領選の年の夏、二大政党がそれぞれの大統領候補を選出する行事だ。とてつもなく華やかだが、どこかうさんくさい。そこがいかにもアメリカ的だ。 アメリカの二十世紀を代表するジャーナリスト、ヘンリー・ルイス・メンケン(一八八〇―一九五六)は、この党大会取材を愛し、半世紀近くすぐれた現場ルポを書き続けた。「陽気でけばけばしく、メロドラマのようで、猥雑で、思いがけぬ興奮を誘うかと思えば、ばかげてもいる舞台が突然現れ、一時間で素晴らしい一年を生きた気にさせる」 メンケンが党大会を描写した一節だ。彼がアメリカ政治へ注いだ眼差し、保った距離感がよく見える。 一九八〇―九〇年代にニューヨーク・タイムズ紙のワシントン支局長を長く務めたR. W. アップルは二〇〇四年夏、七十歳を迎える前に政治記者として最後の党大会を取材した際のコラム記事を、このメンケンの引用で結んだ。 有力紙ニューヨーク・タイムズのワシントン支局長といえば、時の政権に強い影響力を及ぼし得るポストだ。実際、五〇年代に同紙ワシントン支局長を務め、さらに編集幹部となったジェームズ・レストン(一九〇九―九五)は、米政治に長期間にわたり大きな影響力を持った。単に新聞紙上での著述活動によるだけでなく、政界インサイダーとしてケネディ大統領やキッシンジャー国務長官らの影の相談役になることで、影響力を行使した。メディアと政治を論じる『新聞の砲列』などの著書もある。

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