科学力でインドを率いる「ミサイルの父」カラム大統領

執筆者:ラムタヌ・マイトゥラ2006年2月号

 ロケット博士にして詩人、古弦楽器も奏でる大統領が、インドの科学技術先進国への歩みを率いている。 A. P. J. アブドル・カラムは、インドの「ミサイルの父」として広く知られた人物だ。第十二代大統領に就いたのは二〇〇二年七月、バジパイ前政権時代のことだが、マンモハン・シン首相率いる現政権とも良好な関係を保っている。インドの大統領は、ドイツなどと同じく国政の実権をもたない象徴的存在だが、カラムはいささか違う。彼が提唱するインドの未来構想「ビジョン二〇二〇」は、第十次五カ年計画(二〇〇二―〇七)策定にも多大な影響を与えた。 一九三一年、インド南部タミルナド州の貧しい漁師の家に生まれたカラムは、苦学の末にマドラス工科大学で博士号(航空工学)を取得し、国防省防衛研究開発局(DRDO)に入局。六二年、インド宇宙研究機関(ISRO)に移り、インド初の自力衛星打ち上げロケット「SLV-III」の開発を指揮した。八〇年七月、SLV-IIIに搭載されたローヒニー衛星は、地球周回軌道付近にまで到達。この打ち上げ成功でインドは「宇宙クラブ」入りを果たした。 このほかにも、カラムが主導した宇宙開発計画は数々の成功を収め、インドは次のステップに進むことになった。軍事用のミサイル開発だ。八二年、国防省に呼び戻されたカラムは、DRDO局長として、プリトビ、アグニ、アカシュ、ナグ、トリシュルといったミサイル開発の総指揮をとることになった。

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