インド「国策半導体工場」がようやく具体化

執筆者:緒方麻也2014年2月25日

「実は耳が聞こえていた」音楽家のニュースには驚いたが、これはまたしても日本のメディアが「障害者」をはじめとする弱者に対してあまりにも無防備であることを改めて示した。不穏当な言い方かもしれないが、世界の貧困人口の3割が暮らすインド・南アジアはまさに、「貧困」や「差別」、「社会的不正義」に苦しむ弱者には事欠かない。その結果、心優しき新聞やテレビはえてして何の脈絡もなく、「カースト差別」や「(ヒンドゥー教からの)改宗」、はては「土地を奪われた農民」を誇張気味に伝える。

 だがそこには、「なぜ差別がなくならないのか」という歴史的考察や、善悪はともかく「インド人がカースト制度と折り合いをつけて暮らしている」という現実、過剰な農民対策やバラマキ型利益誘導などを批判的に捉える視点が欠落していることが多い。農民の工場建設反対運動などのニュースでも、背後にいる野党勢力や左翼活動家の姿は目に入らないようだ。

 さて今回は、ハイテク産業振興の話。インド政府は2月中旬の閣議で、設備投資のうち最大25%までを補助する「国家半導体政策」に基づいた工場建設プロジェクト2件を承認した。2007年の同政策発表以来、世界同時不況やインド経済そのものの減速などで具体化が遅れていたこの歴史的事業がようやく始動する。ソフトウェアなどの研究・開発に偏っているインドのエレクトロニクス産業のすそ野を広げるとともに、新規雇用を創出し、半導体や電子部品などの輸入依存を軽減して経常収支の改善を図るという様々な思惑が込められている。

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