「BSE問題」渦中の英国で魚料理の地位を高めた一品
2006年3月号
日本政府は一月二十日、米国産牛肉にBSE(牛海綿状脳症)の病原体が蓄積しやすい特定危険部位の脊柱が混入していたとして、昨年末に再開したばかりの輸入を再び禁止した。実はここ十年、BSEは外交の饗宴の場にも大きな影響を与えてきた。 一国としては最大の十八万頭を超える牛がBSEを発症した英国は、一九九六年以来、欧州連合(EU)諸国への牛肉の輸出が禁止されている。EUは近く解禁予定だが、バッキンガム宮殿、ダウニング十番地(首相官邸)いずれも、外国首脳を迎えた饗宴では牛肉料理を避け、リスクの少ない子羊を供するようになった。ただもう一点、見落とせないのは魚料理が主菜(メイン)として認知されるようになったことだ。 以前は魚料理は前菜にとどまり、主菜はあくまで肉料理だった。しかしBSEに汚染された肉骨粉を飼料とする食肉の大量生産方式への反省は、健康志向の追い風もあったが、それまでの魚料理への認識を大きく変えた。そのイメージ転換の契機となったのが、九九年七月、イタリアのマッシモ・ダレーマ首相を迎えてブレア英首相が催した首相官邸の昼食会といわれる。 このとき料理を任されたのはロンドンの有名レストラン「フィフティーン」のオーナーシェフ、ジェイミー・オリバー氏だった。九〇年代半ば以降、「英国に美食あり」を世界に認識させた英食文化の革新を先導してきた当時二十代半ばの若者。いまでも料理本は出せば売れ、プロデュースした食器や調理器も引っ張りだこというカリスマ・シェフ。
記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。