オーストリアに移民統合の成功例を探る

執筆者:北村隼郎2006年3月号

「有能な移民の抜擢」に始まる、ハプスブルク帝国時代から積み重ねられた移民受け入れのノウハウ。オーストリアに何を学ぶべきか。 二〇〇五年はフランスやオーストラリアで移民に絡む騒乱事件が相次ぎ、先進国での移民問題の難しさを再認識させられた年でもあった。そんな中で、長年にわたって移民を受け入れ続けながら目立った問題を起こさず、しかもその国らしさも失わない「優等生」のような国がある。中欧のオーストリアだ。寛容にして、したたかなその姿勢は、いずれ本格的な移民受け入れと向かい合わざるをえない日本にも教えられるところが多い。 オーストリアの首都ウィーン。市内を流れるドナウ運河に面する近代的なビルは、同国最大の携帯電話会社モビルコム・オーストリアの本社だ。 周辺の中・東欧諸国にも積極進出中のオーストリアきっての優良企業である同社は、旧国営の通信会社テレコム・オーストリア傘下で、さながら「オーストリアのNTTドコモ」。ただ、日本のNTTドコモと大きく異なるのは、CEO(最高経営責任者)が「移民一世」であることだ。 まだ四十代後半のその人物、ボリス・ネムシッチ氏は旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ出身。学生時代、ウィーンの大学に留学後、そのままオーストリアに定着し、頭角を現してCEOにまで上り詰めた。同社がここ数年、スロベニアやクロアチアなど中欧の携帯電話会社を次々と買収できたのも、ネムシッチ氏の功績が大きい。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。