米国における移民問題の重要性について3回にわたって論じてきた。移民問題といえば非正規移民問題とイコールという図式で、移民をめぐる米国政治の議論の中心は非正規移民問題であり続けてきた。今回、移民問題の米国政治での立ち位置をめぐる論考を締めくくるにあたって、非正規移民問題の政治的含意を考えてみたい。

 一連の論考において、合法的な手続きを経ないで入国した移民を、筆者が、「不法移民」でなく「非正規移民」とよぶことにお気づきの読者もいるのではないかと拝察する。入国時の非合法性をもって「不法移民」(illegal immigrant)と一般的によばれることが多いのであるが、筆者はこれに強い違和感を感じるものである。「不法」という言葉から、こうした移民を米国入国後も犯罪に手を染め、社会に害悪を及ぼしている、まるで無頼漢であるかのごとくイメージするからである。事実、米国の移民問題の議論においては、往々にしてこの「移民」が社会に及ぼす「悪影響」をどのように排除していくかという論調ばかりが目立つのである。

 しかしながら、彼らは招かれざる客ではなく、ましてやお荷物などでも決してなく、米国社会に根を下ろし、その繁栄を支える一翼を担っている存在である。たとえば、同じ所得水準の人を比べたときに、非正規移民のほうが正規移民や米国生まれの米国民(すなわち「非移民」)に比べて犯罪率が高いという傾向は見られない。さらに、労働許可証を取得し、収入相応に税金を納めていることが多い。つまり、納税者という意味で非正規移民が米国という国家に対する貢献度が低いわけでもない。

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