シンガポール取引所(SGX)の“歴史的スキャンダル”に、奇妙な幕引きが近づいている。 二〇〇四年十一月、SGX上場のジェット燃料商社、中国航空油料(CAO)のデリバティブ(金融派生商品)取引に五億五千万ドルに上る損失が発覚。同じSGXを舞台にしたデリバティブ取引の巨額損失で、英ベアリングズ銀行のトレーダー、ニック・リーソンが同行を破綻に追い込んだ一九九五年の事件を忘れる金融関係者はいない。「大スキャンダルの再現か」と、市場は騒然となった。 CAOは自主再建を断念。現地の裁判所に資産保護を申し入れるとともに、債権者たちに計五億ドル以上の債務カットを求めた。日本の三井住友銀行や韓国SKエナジーが債務返還要求に乗り出したことは、本誌〇五年四月号でもお伝えした。 ところが、その後の事態は意外な展開を見せた。昨年六月の債権者会議は、ほぼ“無風”で終了。結局、CAO側の当初の目論みに近い「債権者は弁済率四五%の一括弁済か同五八%の五年間分割返済を選択」との案で合意は確実とされる。売買停止が続いていた株式も、三月末を目処に取引再開の予定だ。 CAOの高笑いが聞こえてきそうな成り行きの背景には、債権者側が「めぼしい資産のない燃料商社を清算しても弁済率が悪くなるだけ」と涙を呑んだこともある。が、シンガポール政府の投資会社テマセク・ホールディングスが支援姿勢を明確にしてきたことはそれ以上に大きい。テマセクは損失発覚後、いち早く資金援助を表明。債務カットの仕組み作りでも中心的役割を果たしてきた。昨年末にはCAOの親会社の国営中国航空油料集団、英BPとともに、子会社のアランダ・インベストメンツを通じて千五十万ドルの第三者割当増資にも応じている。

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