「非効率な国営企業」を狙ったミタル急成長の軌跡

執筆者:サリル・トリパシー2006年6月号

空前の拡大路線で鉄鋼世界最大手を築いたミタル会長だが、「品質」と「企業統治」というアキレス腱もかかえている。[ロンドン発]「世界の鉄鋼王になる」――一九八〇年代、祖国インドを離れる際、自らにそう誓ったラクシュミ・ミタル(五五)は、わずか二十年あまりで夢の実現に王手をかけている。今年一月、ミタルの名を冠した鉄鋼世界最大手ミタル・スチールが、世界第二位のアルセロール(本社ルクセンブルク)にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けるという大胆な策に出たことは周知の通りだ。この買収が実現すれば、グループ全体の粗鋼生産が日本の年間総生産量一億一千万トンに相当する巨大な鉄鋼メーカーが誕生する。 数々の企業買収を重ねてきたミタルにとっても最大規模の“敵対的買収”であり、対するアルセロールのギー・ドレ最高経営責任者(CEO)始め、フランスやルクセンブルクの政治家、そして欧州の労働組合からは強い反発を買った。 アルセロールを貴重な「香水」、ミタルを安物の「オーデコロン」にたとえるドレは、ミタル側の買収提案を一蹴し、かつて米国に対抗すべく欧州諸国が共同設立したエアバス・インダストリーを例にとって欧州の牙城を死守すべきと主張。さらに、ミタルが年若い息子を社長兼最高財務責任者(CFO)に据えていることから、その企業統治の在り方に疑問を投げかけた。

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