行政や農協による「牛乳の消費拡大」キャンペーンが続いている。きっかけは、今年三月に北海道で、牛から搾って手を加える前の「生乳」約九百トン(牛乳一リットルパック約百万本分)が廃棄されたこと。余剰乳を市場から隔離して飼料などに使った前例はあるが、集荷団体が産業廃棄物として捨てたのは史上初だ。バターの在庫に悩んだフランス政府が火力発電所で燃料油代わりに焼却したことはあるにせよ、ゴミ扱いした国は、おそらく古今東西ないだろう。 原因には、まず需要面で慢性的な「乳離れ」現象がある。そこに「平年より一頭当たりの乳の出方が良かった」(北海道の酪農関係者)という供給面での要因が重なった。米国での牛海綿状脳症(BSE)の発生により国産子牛の値段が上昇し、大都市近郊の酪農家は北海道産の子牛の購入を手控えた。昨年の好天候による豊かな牧草に恵まれた北海道にとどまる乳牛が増え、その結果全体の乳量が増えた。 しかし根底には、同じ「生乳」でも用途によってメーカーが引き取る生産者価格が大きく異なる「一物三価」という構造的な問題がある。例えば、飲用だと一キロ当たり百円程度。脱脂粉乳やバターなど加工用は約五十円。チーズ用は最低の四十円で、水やガソリンよりも安い。生産者としては、飲料として引き取ってもらえないなら「捨てた方がまし」となってしまう。

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