不覚にも急性心筋梗塞の発作を起こして倒れ、病院のベッドで2週間過ごした。退院後の試運転を経て、6月から本格復帰を図っている。
 入院中することがないので、女房に頼んで研究室から積読(つんどく)本を一山ずつ運んでもらった。まったく久しぶりのゆったりした読書に耽溺したが、なかでもエズラ・ヴォーゲル『鄧小平』の訳本上下2巻は圧巻で、2005年に出たユン・チアンの『マオ:誰も知らなかった毛沢東』を思い出させてくれた。『マオ』は、異常性格者として描かれる毛沢東が中国をつくって破壊するまでの物語であるが、『鄧小平』のほうは中国の高度経済成長期まで続くので、いくらか明るい気分で読み進めることができる。

 鄧小平は、シンガポールのリー・クアンユーやマレーシアのマハティールと並ぶ、戦後世界に登場した最高の経済発展マイスターだろう。エズラ・ボーゲルも、毛沢東ではなく彼を現代中国建国の立役者としている。その鄧にしてからが、生涯の大半は経済以外の事柄によって、たとえば嫉妬深い毛沢東の攻撃から身をかわし、4人組との権力闘争を勝ち抜き、アメリカとの外交交渉を操作するために費やされた。中国経済を立て直すために使われた労力は、読後感では、鄧が発揮した全エネルギーの3割ほどではなかろうか。

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