「WTO破綻後の世界」で取り残される国

執筆者:戸川秀人2006年7月号

ドーハ・ラウンドが大難航。WTOの交渉決裂を見越した各国はすでに動き始めた。ひとり日本だけが……。 ベトナムのホーチミンで六月初めに開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易相会合は、奇妙な「二重構造」をしていた。 会議に参加したのは二十一カ国・地域の閣僚。最終日の六月二日に特別声明を採択し、難航する世界貿易機関(WTO)交渉の早期決着を強い口調で促した。だが、この威勢のいい宣言は各国の表向きの顔にすぎない。会議の舞台裏で各国の代表団が見せる表情は全く異なっていた。 国際会議場の片隅や、市内の高級ホテルの一室。まるで人目を避けるかのように、米国や韓国、タイなどの官僚が会合を重ねる姿が、市内のあちこちで目撃されている。 秘密裏の協議の中身は何なのか。米政府の通商政策当局者が、こう明かしてくれた。「ひとことで言えば、WTO交渉の頓挫に備えた“プランB”の準備ですよ」。 WTOに加盟する世界約百五十カ国が取り組むドーハ・ラウンドは、正式名称を「ドーハ開発アジェンダ」という。交渉の目的は、先進国と途上国が互いに農産物、鉱工業品、サービス、投資などの市場を開放し、世界に自由貿易の輪を広げることだ。首尾よく合意すれば、貿易や投資が活発化し、世界全体の経済成長力を高めることができる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。