日本企業の投資相次ぐベトナムに、「日本嫌い」の首相がとうとう誕生した。このままでは外交下手のしわ寄せが民間に及ぶ……。[ハノイ発]五月十六日、ハノイ市。ホーチミン廟に臨む国会議事堂で、第十一期ベトナム国会第九回会議が開幕した。グエン・バン・アン国会議長、ノン・ドク・マイン共産党書記長らの開幕演説に続き、壇上に立ったのはグエン・タン・ズン第一副首相。昨年の国会に続き、政府を代表しての社会・経済の発展に関する報告を担当したズン氏だが、今回は「これまでにない緊張感が国会全体に伝わった」と政府関係者が打ち明けた。 ズン氏が緊張していたのには理由があった。国会が開幕する直前の当日早朝。共産党系機関紙ニャン・ザンなどベトナムの有力地元紙記者に囲まれたファン・バン・カイ首相が質問に答え、こう語った。「私はこの国会(六月三十日閉会)をもって退任する。後継者はズン第一副首相を指名することになるだろう」。 すでにズン氏の首相昇格は直前に開催された第十回共産党大会で固まっており、その情報は地元紙記者のみならず海外メディアにも広く伝わっていたが、それまでは暗黙の了解の域を出なかった情報。だが、カイ首相自らのこの発言により、国会は開幕時点からズン氏を事実上の首相として迎え入れることになった。正式決定までは党人事および政府人事を決して報道しないベトナム地元紙も、この時ばかりは翌日の紙面で「カイ首相、ズン氏を後継指名」と大きく扱った。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。