国際捕鯨委員会(IWC)は、六月にカリブ海の島国セントクリストファー・ネビスで総会を開き、商業捕鯨再開を支持する宣言を一票差で採択した。一九八二年の商業捕鯨一時禁止(モラトリアム)以降、捕鯨支持派が初めて過半数を制した。 しかし、これで商業捕鯨再開への流れが強まると考える関係者は誰もいない。IWCの規定は四分の三以上の賛成が無いと変更できないからだ。今回の宣言にも拘束力はない。僅差の対立が続く限りIWCは実効性のあることは何も決められない。 この「対立の均衡」で最も恩恵を受けているのは、日ごろ国際舞台で無視されがちなアフリカやアジアの発展途上国だろう。多数派工作のために、大国が平身低頭して自陣営に勧誘し、水産無償資金協力などの約束まで飛び交う。小国にとって、存在感を誇示しお金までもらえるまたとない機会なのだ。 次に恩恵を受けているのは、実は日本の水産庁とその外郭団体だ。かつての捕鯨大国・日本も、今や調査母船一隻を有するのみ。鯨肉は「珍味」扱いされ、産業としての捕鯨はすでにすたれてしまった。調査捕鯨の実施主体である財団法人・日本鯨類研究所は、政府から毎年数億円規模の補助金を受けており、実質的な「国営事業」だ。彼らが「調査副産物」と呼んでいる鯨肉は「過去の実績」を基準にした割り当て制で業者に配分される。売り渡し価格の倍以上で流通することもあり、利幅の大きい既得権益だ。

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