増村紀子さん(仮名・昭和13年生まれ)がすまいるほーむにやってきたのは、昨年の7月下旬であった。紀子さんは、公営住宅に独り暮らし。レビー小体型認知症を患い、幻覚や被害妄想の症状があるため、生活上に様々な困難な問題が出てきたり、他の住民とのトラブルも多くなっていた。たとえば、物が無くなるという妄想のために警戒して長い間自宅で入浴ができていなかったり、また、気づくとベッドの上に男の人が座っているという幻視のために、夜間はベッドに横になれず、居間の座椅子でうとうとすることしかできなかったり。あるいは、隣の住民が知らないうちに家に入ってきて物を盗んでいくという被害妄想のために、隣の住民に抗議に行ったりすることも度々あったという。

 認知症の症状ばかりでなく、両耳が重度の難聴であることも、紀子さんが社会生活をしていくことを困難にさせていた。10年程前から徐々に耳が聞こえにくくなり、現在は補聴器をつけても玄関のチャイムの音がかすかに聞こえる程度にまで難聴は進み、発語はできても耳を使ってのコミュニケーションはできなくなってしまったという。外部の音から遮断された中での独り暮らしが、認知症に加えて、更に彼女の妄想や幻覚を助長することになってしまったのかもしれないとも思う。

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