優れたミステリー小説の条件とは何だろう。以下の七条件は、評者が今ここで勝手にひねくりだしたものだが、たぶん大方の読者からは賛同をいただけるのではないかと思う。(1)文体。独創的なものである必要はないが、少なくとも冒頭から結末までトーンが一貫していなければならない。(2)名文句。著者の人生観を反映した気の利いたセリフやナレーションが欲しい。例:「陰謀というものは、失敗すればスキャンダルになるが、成功すれば偶然の出来事になる」。(3)登場人物。できればヒーローは高村薫のごとく、ヒロインは桐野夏生のごとくありたい。ちょっとだけしか登場しない脇役にも手間をかけること。(4)筋立て。意表をつく展開が望ましいのはもちろんだが、結末はある程度読者の想定の範囲内であった方がいい。(5)舞台。関心は高くても、普通の人があまり知らない世界が良い。「ハゲタカ外資に食い荒らされるバブル崩壊後の金融界」などは格好の条件といえる。(6)小道具。「外国人が集まる六本木のデートクラブ」や「花粉症に苦しむヤクザ」といった今風の要素を加えることで、物語に奥行きが出る。(7)モチーフ。著者が作品によって描こうと意図したもの。ただしこの部分は、作品の成功不成功にとってさほど重要ではない。

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