クリミアへの旅(2)外国に行けない旅券

執筆者:国末憲人2014年7月29日

 新たな独立国が生まれたことはある。国家間の交渉で国境が動いたこともある。だが、力ずくで国境を変更させられた例は、少なくとも近年の欧州には見られない。

 ロシアによるウクライナ・クリミア半島の併合がもたらした衝撃は、そこにある。もちろん、この併合は住民投票の結果であり、「住民投票で示された民意にロシアが従った」との体裁を、形式上は取っていた。一方で、ロシアの描いたシナリオにすべてが沿っていたのも、否定しがたい。

 今はまだ、ウクライナ東部ドンバス地方で紛争が続いているから余裕もないだろうが、これが落ち着くと、ウクライナ政府は黙っていないだろう。ロシアに対し、領土返還を求めるに違いない。

 

住民に広がる疑心暗鬼

 併合後のクリミア半島はどうなっているのか。様々な制度をウクライナ流からロシア流に変更する「ロシア化」が起きていると推測できるが、実態がよくわからない。プーチン政権のメディア支配が徹底し、都合の悪い情報が外部に漏れなくなっているからだ。「住民の圧倒的支持を得てロシアに編入され、みんな満足している」などという 話ばかりを、ロシアメディアは流している。

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