「安保」も「東アジア」も議論分裂を露呈する米民主党

執筆者:マイケル・グリーン2006年8月号

[ワシントン発]六月二十二日、米上院本会議では、イラク駐留米軍の撤退に関する二つの決議案が議論された。「今年末に撤兵を開始し、来年七月までに完全撤退する」という積極的な撤退決議案は、八十六対十三という圧倒的反対多数で否決された。共和党議員(五十五名)は全員が反対、民主党議員(四十四名)の賛否は割れた。もう一方の「期限を設けない」という段階的撤収案も、六十対三十九で否決された。 皮肉なことに、こうした決議案を誰より望んでいたのは、ホワイトハウスだった。なぜなら、この決議案への賛否を問えば、イラク政策に対する民主党議員それぞれの立場が鮮明となり、同党の内部分裂がいっそう浮き彫りになることが分かっていたからだ。 世論調査によれば、ベトナム戦争以降、多くのアメリカ国民が安全保障政策に関して民主党は共和党よりも弱腰だと考えている。 二〇〇四年、大統領選に打って出た民主党のジョン・ケリー上院議員は、あえて安全保障政策を争点に選んだ。自らがベトナム戦争に従軍した経歴をもち、しかもイラク戦争の大義をめぐって一期目のブッシュ政権が窮地に追い込まれていたから、当選確実と考えたのだ。 だが、ホワイトハウス、とりわけブッシュ大統領の次席補佐官カール・ローブにしてみれば、してやったりの思いだったにちがいない。安全保障というテーマが共和党に有利に働くことは自明であり、安全保障問題は民主党の支持基盤を分裂させることも読んでいたからだ。おまけにケリー自身、当初はイラク開戦を支持しながら、のちに反対に転ずるなど、風見鶏のように意見を変えていた。共和党の見通しは的中し、ケリーが敗北を喫したのは周知の通りだ。

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