鄧小平が南巡講話を発して一層の経済開放路線を獅子吼した1992年2月から5カ月ほどが過ぎた同年7月、中国の党・政府幹部や新聞記者などで構成された「赴新加坡精神文明考察団」と名乗る一行が、シンガポールに降り立った。

 彼らは、鄧小平の「シンガポールの厳格に管理された社会秩序を学び、彼らの経験に倣って彼らより立派な管理をすべきだ。シンガポールの経済発展は速く、社会秩序と精神文化は確固として突出しており、かねてから我われも注目していた」との考えに基づき派遣されたのである。

 一行は2週間ほどをかけて住宅政策、官僚の汚職・腐敗対策、西欧文化への対応、労働組合と企業経営、メディアのあり方、住民向けサービス、観光業、経済建設などを視察し、「シンガポールの厳格に管理された社会秩序」の仕組みを重点的に考察している。その結果、帰国後にまとめた報告を『新加坡的精神文明』(中国赴新加坡精神文明考察団 紅旗出版社 1993年)として出版した。

 それによれば、彼らがシンガポールで最も深い印象を受けたのは、「全世界で最も不正・汚職のない清潔な政府」と、「居者有其屋(居ス者ハ其ノ屋ヲ有ツ)」を目標に建国以来30有余年の努力で国民の87%が個人住宅を所有するに至った住宅政策――の2点だった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。