王子製紙のM&Aで甦る「王増祥」事件

執筆者:喜文康隆2006年9月号

「株式会社という経済学のミッシング・リンク(失われた環)を埋め、所有と支配の分離の事実を実証し、そのうえで経営者支配という新しい傾向を有無をいわさぬ形で人々の前に示したのが、バーリとミーンズであった」(間宮陽介『市場社会の思想史』)     *「堀江貴文も村上世彰をめぐる騒動も、結局は予告編にすぎなかった」――そう思わせたのが、王子製紙による北越製紙のTOB(株式公開買い付け)実施のニュースである。 最終決着の行方は、まだわからない。しかし、今回のドラマで重要なのは最終決着ではない。 王子製紙、北越製紙、三菱商事、日本製紙、野村証券――日本を代表する企業が攻守ところを変え、それぞれに行動原理のコペルニクス的な転回を迫られていることがポイントなのだ。「M&A(企業の合併・買収)を、敵対的か友好的かの二つにわけることが本当にできるのだろうか」。“敵対的”なM&Aに踏み切った王子製紙のアドバイザーでもある野村証券首脳のつぶやきは、日本型経営システムが三十年かかって辿りついた地平を示している。 株式を買い集めることで経営に問題提起することは、日本においては常に「変な人」たちの役割だった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。