敵対勢力を利した米「中東政策」の逆効果

執筆者:池内恵2006年9月号

 イスラエルとヒズブッラー(ヒズボラ)との大規模な戦闘が開始してから一カ月の八月十一日、停戦を求める国連安保理決議一七〇一が全会一致で採択された。ヒズブッラーとイスラエルの双方に攻撃の停止を要求し、レバノン国軍の南部レバノンへの展開や、それが可能になるまでの間に国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の規模と任務を増強する、といった内容である。ヒズブッラーの武装解除を求めた二〇〇四年の安保理決議一五五九も再確認された。 停戦決議の採択と、両当事者の一応の受け入れ表明がなされ、紛争を一定規模に封じ込める効果は期待できるが、問題解決には程遠い。 レバノン国軍の展開あるいはUNIFILの増強は空文と化す可能性が高い。現在のUNIFILは形式だけであり、決議を満たす規模と能力の部隊を実際に提供する国が早急に見つかるとは考えにくいからだ。その間、イスラエル軍は「自衛」としてヒズブッラー攻撃を続行する。イラク情勢に足を取られて派兵できないアメリカと、仲介の主導権を握ろうとしつつも危険な任務を負うことには及び腰のフランス、そして形式的には停戦を入れつつ、「自衛」の範囲内でヒズブッラー掃討作戦を続けることにお墨付きを得るイスラエル――それぞれにとって都合のよい時間稼ぎの決議といえる。

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