「西川路線」を捨てた三井住友銀行

執筆者:本田真澄2006年9月号

「疾風に勁草を知る(速い風が吹いて初めて強い草が見分けられるように、厳しい試練に直面して初めて意志や節操の堅固な人間であることが分かる)」(後漢書・王覇伝) UFJ銀行争奪戦で東京三菱銀行に敗れ、大幅な赤字決算でメガバンクとしてのプライドがズタズタに傷つけられた三井住友銀行のトップに就任して一年余、奥正之頭取は最近、座右の銘とするこの故事を改めて噛み締めているという。 奥氏が銀行再生のために宿命づけられたのは、“堕ちたカリスマバンカー”西川善文前頭取(現日本郵政社長)時代の「行き過ぎた収益一辺倒路線」との決別だった。 今春には、西川時代の中小企業向け金利デリバティブ(金融派生商品)の押し付け販売が独占禁止法違反(優越的地位の濫用)に問われ、金融庁から当該商品の販売停止(半年間)や法人営業部の新設の禁止(一年間)など厳しい行政処分を受けた。国会の参考人招致で、奥氏は「違法な販売の事実は当時の経営陣の耳には入っていなかった」と西川氏を庇ったが、行内では「数年分の収益を先食いして販売年度に計上できるデリバティブの押し付け販売が横行した背景には、収益力を追求し不良債権処理のための原資の確保に焦る西川氏の圧力が存在した」(関係筋)との見方が大勢をしめる。実際、西川時代には、過大な収益目標の達成に追われ続けた営業現場から「行員も営業協力を求められる客もヘトヘト」との悲鳴も漏れていた。

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