『風濤』井上靖著新潮文庫 1967年刊 韓国の盧武鉉大統領が“朝鮮半島の地政学”にえらく入れ込んでいる。そのきっかけになった本があって、若手研究者のペ基燦著『コリア/再び生存の岐路に立つ』(韓国ウィズダム・ハウス刊)がそうだ。大統領は先ごろ開催された軍の全軍主要指揮官会議でも出席者全員にこの本を配るなど、昨年来ことあるごとにこの本をPRしている。 これは朝鮮半島の歴史を、周辺国との関係に重点を置いて古代から現代まで分析した地政学の本である。つまり朝鮮半島が置かれた地政学的条件からして、コリアの“生存”は周辺国との関係をいかにうまく設定するかにかかっているとみる。そして結論的には、スイスのような「中立国」が理想という。 こうみてくると、韓国のあるべき未来像として盧武鉉政権が主張している「東アジアの均衡者(バランサー)」論や、「自主外交」という名の反米、そして反日強硬論の背景が分かる。韓国をこれまでとは違って周辺国に左右されない独自の存在――東アジアの中立国にもっていこうというわけだ。 なぜ韓国は「中立」を切望するのか、理由は歴史を見ると納得できる。その韓国―朝鮮半島の地政学が象徴的に描かれているのが、井上靖の歴史小説『風濤』である(単行本は一九六三年刊)。モンゴル(元)の過酷な支配下で朝鮮半島の高麗(九一八―一三九二年)がいかに苦労し、いかに生き延びてきたかが、とくにフビライによる日本侵攻作戦の時代を背景に切なく書かれている。

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