ロールズが問うた「思想・信条の異なる共存」

執筆者:会田弘継2006年10月号

 現場をはじめて訪れたのは一年後だった。整理が進んだとはいえ、ビルの倒壊跡は茫漠としていた。花束を持って訪れる人々。傷跡が生々しく残る周辺のビル群。かつてそこにあった世界貿易センタービルの巨大さを思い起こし、すでにアフガニスタンでの戦争が終わり、次のイラクでの戦争の気配が濃くなっていることを考えたとき、事件の途方もなさが迫ってきた。あれからさらに四年。アメリカも世界も、ますます迷路から抜け出せない状態となっている。 9.11テロとその後の混乱は、異なる価値観や信条を持つ人々(国々)は、いったいどのようにして争わずに共存できるのかという根源的な問いを、あらためて世界に突きつけた。古典的な問いだ。しかし、グローバリゼーションで世界がますます狭くなる今日、より重たい問いとなっている。アメリカとイスラム過激派だけでない。あの日の同時多発テロを受けて、アメリカが軍事介入に踏み切ったアフガニスタンとイラク。いずれも依然として混迷の中にある。これらの国で起きているのも、さまざまな民族・宗教の共存をめぐる問題だ。当のアメリカ自体、イラク情勢をめぐり真っ二つに割れ、異なる主張や信条が共存できないほどに軋みあっている。

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