権力者が嘘をつくことは歴史の常としても、権威ある者が人を騙すことは、裏切りであり、信頼を損ね、権威そのものが地に墜ちかねない。もちろん、朝日新聞の「慰安婦強制連行をめぐる捏造記事」の話だ。

 新聞は2紙以上読め、が鉄則だが、それはなぜかというと、それぞれの新聞が色眼鏡をかけ、情報を分析しているからであって、読者は新聞記事を多角的に見定めなければならない。権威のある新聞だからといって記事を鵜呑みにすることはできない。しかも捏造記事が載っていたとなると、読者は何を信じてよいのか分からなくなる。

 

天武「生年」の謎

 古代史の謎解きにも、どこか似たところがある。権威を信頼しきっていては、真相を見誤る。ひとつの情報だけに頼っていては、真実を見極めることができないのである。

 ヤマト建国から7世紀に至る歴史を記した『日本書紀』は、西暦720年に編纂された。朝廷の正式見解だから「正史」であり、もっとも信頼できる古代文書とされている。

『日本書紀』と異なる伝承や記事が存在する場合、『日本書紀』の主張を信じることが、鉄則となっている。『日本書紀』よりもあとから書かれた稗史(はいし、民間の歴史書)を信用するわけにはいかないというのだ。事件の現場に立ち会った役人の証言と後の時代の民間人のうわさ話では、比較するのもおこがましいということだろう。しかし、現場に居合わせた役人が事件の関係者や当事者だったとすれば、話は別だ。役人は嘘をつき、それを目撃した「民間人」は真相を語り継いだかもしれない。

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