湾岸諸国の新聞を売るロンドンのパキスタン人

執筆者:竹田いさみ2006年10月号

 米国のニューヨークから大西洋を越えて英国ロンドンへ。多民族社会といっても二つの都市の表情はだいぶ異なる。アラブ系の石油金満家が闊歩しているという点では同じだが、ニューヨークではイスラム教徒の密集地域は実質的にないと言ってよい。マンハッタン島からイーストリバーを越えてブルックリン地区に入ると、たしかに「リトル・アラブ」と呼べそうな一区画はあるが、イスラム教徒が密集して居住しているわけではない。目立たないモスク(礼拝所)に並んで、イスラム教が許容するハラル食品などを扱う商店が軒を連ねている程度だ。 ところがロンドンは明らかに違う。緑豊かなハイドパーク周辺を散歩していると、アラブ系の新聞や雑誌で埋め尽くされたニューススタンドが目に留まる。つまりアラブ系の居住者が大きなプレゼンスを持っているということだ。言論の自由を象徴する「スピーカーズ・コーナー」から地下鉄マーブルアーチ駅方面に歩き、大通りパークレーンを渡ると小さな雑貨屋がある。ここでもアラブ系の新聞や雑誌が大きな顔をしてラックに収まっていた。 ロンドンで見かけるアラビア語の活字メディアは、年々、その種類と部数が増えており、この雑貨屋に限れば本家の英語メディアは脇役扱いだ。米国の国際普及紙『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』の広告を兼ねた新聞ラックは、米国紙がアラビア語紙に埋もれていて見つからない。それほどアラビア語の新聞と雑誌が、ここでは幅を利かせている。ざっと数えただけでも五十は越えるだろうか。中東・ペルシャ湾岸諸国から毎日、エミレーツ航空などの直行便で大量に送られてくる。潤沢なオイルマネーを見せ付けられる思いだ。

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