ついに、わが国初のペイオフ実施の可能性が高まっている。東京都内に本店を置くある信用組合の経営が破綻状態に陥っているためだ。すでに、東京都信用組合協会が同信組の毎日の資金繰りを調査し始めている。 過去の金融機関の破綻では「当局や協会が資金繰りの状況を監視し始めると、その金融機関は末期症状」(大手銀行幹部)にあった。もし、同信組が破綻すれば、取引先企業にまで被害が及ぶため、協会が資金繰りの状況を監視しているわけだ。 実は、同信組に対する金融当局の検査は九月末に終わっている。結果の通知は約一カ月後。検査で債務超過と認定されると、合併や事業譲渡という処理を行なうまで一カ月間の猶予が与えられる。ただし、それらの処理方法は、資金繰りが破綻しないという前提があってこそ認められる。資金繰りを続けるためには資本を注入しなければならないが、全国信用協同組合連合会の相互援助資金(個別信組の資本を支援するための資金)は枯渇しているため、債務超過を解消したうえでの合併や事業譲渡は難しい。となれば、ペイオフ実施が現実味を帯びてくる。 経営危機に陥っているこの信組は同業者の集まりによって設立された業域信組。このため、基本的には預金者も融資先も同業者に限定されている。金融当局が最も恐れるのが、ペイオフ実施の際に金融システムに与える悪影響。その点、預金者も融資先も少ない同信組は、実施しても他の金融機関への影響は最小限に留まると見られ、“試行”の意味合いの強い第一号には「うってつけの存在」なのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。