ロシアが仕掛ける「ハイブリッド戦争」の脅威

執筆者:名越健郎2014年10月25日

 ロシアのウクライナ軍事介入は、住民の自決権を錦の御旗に、特殊部隊や民兵を駆使し、宣伝工作、情報操作、政治・経済工作など異なる手段を組み合わせた新しい作戦形態だった。北大西洋条約機構(NATO)はこれを「ハイブリッド戦争」と名付け、対抗策を検討する特別チームを設置した。ロシア側は欧米の制裁で「第2次冷戦」(パトルシェフ安保会議書記)が始まったとしており、緊張が長期化する。

 

「エボラ出血熱」並み

 ウクライナ東部の戦闘は9月5日の停戦合意後、下火となったが、ロシア指導部の欧米非難は高まる一方だ。プーチン大統領は10月15日、セルビア訪問を前に同国のメディアと会見し、オバマ米大統領が9月の国連演説で、「人類が直面する3大脅威」として、エボラ出血熱、イスラム国、ロシアの欧州侵略を挙げ、ロシアをエボラ出血熱と同一視したとし、「敵意以外の何者でもない」と糾弾。米政府はウクライナの極右勢力を支援して危機を煽り、内戦を発火させたと述べ、「ロシアを脅迫するのは気狂い沙汰であり、核大国間の不和は戦略的安定を脅かす」と警告した。

 大統領時代にオバマ大統領と米露関係のリセットを進めたメドベージェフ首相も10月15日、「米露関係はいまや修復不能であり、いかなるリセットの可能性もない」と述べた。プーチン大統領の腹心、パトルシェフ安保会議書記は、ロシア新聞(10月15日付)のインタビューで、米国を「外部の敵」とし、「米国は何十年にもわたり、モスクワを孤立させ、旧ソ連圏で影響力を削ごうとしてきた」とし、ロシアを破壊する試みはカーター政権時代にブレジンスキー大統領補佐官によって開始されたと指摘した。

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