エボラと黒死病

執筆者:徳岡孝夫2014年11月5日

 選挙区の夏祭りに団扇を配った女大臣は許し難いと、大声を上げておられた方々。また選挙区の皆様を明治座への観劇旅行に世話した女大臣はケシカランと叫んでおられた人々。そういう正義派は、つい先だってのことをお忘れになったのかなあ。

 古い話ではない。毎月お母様から「子分も増えたことだろうから」と、欠かさず1500万円のお小遣いが届いたことを。それがバレたとき「本当です。ちっとも知らなかった」と真面目な顔で弁解なさった方がいらしたことを。その方を党首に戴いておられたことを。

 

 人間には不思議な癖がある。生死にかかわる大病なのに、指の疵の方を痛がる人がいる。

 スペインはマドリード市の病院に勤める看護助手テレサ・ロメロさんはエボラ出血熱のウイルスを持つ患者を看護していて感染し、彼女も彼女の夫も隔離された。ところが騒ぎは、夫婦の飼い犬エクスカリバーを巻き込んで炎上した。人は飼い犬を抱くし、愛犬に口移しでクッキーを与える人もいる。

 スペインの保健衛生当局は、迷わず犬の殺処分を決めた。これが火を煽った。

 デモ隊が犬の隔離されている施設を囲み、犬の助命を要求する40万通のメールが世界各地から殺到した。エボラの恐怖は、犬1匹の命の前に、しばし忘れられた。

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