日中首脳会談と「言葉の魔法」

執筆者:野嶋剛2014年11月12日

 外交文書は「言葉の魔法」とも言われるが、今回のAPEC(アジア太平洋経済協力)において、日中首脳会談が行われるたった3日前に発表された「日中合意文書」は、外交における「言葉の魔法」の重要性を改めて我々に伝えるものだ。

 習近平・中国国家主席がむくれた表情で安倍晋三首相の言葉を無視した態度は日本人として嬉しくないことではあるが、2人の握手と会談はあくまでもセレモニーであることは誰もが知っている。今回のAPECにおける日中首脳会談は、4項目の日中合意文書の発表において実質的に終わっていた。

 その主要なポイントを簡単に言えば、尖閣諸島問題において日本はやや譲歩し、靖国神社参拝問題において中国はやや譲歩したということになる。

 ただ、総じて言えば、これは一時休戦の約束、と解釈していい。国際関係において、どんなに頑張っても解決できない難問が存在する。そんなとき、我々がとり得る唯一の対処方法は、辛抱強く、諦めず、無理をせず、ただひたすら見守りながら「待つ」ことである。そうすることで、時間が過ぎていくうちに状況が変わり、思わぬアイデアが浮かんでくることもある。お互い、殴り合うよりも当分は忍んでいたほうがマシ、という理屈である。

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