辺境の革新的資本主義に何を学ぶか

執筆者:喜文康隆2006年12月号

「道徳的観点から見るなら、あらゆる個人が十分に食べる権利をもちますが、それを実現するための経済的手段にかんしては道徳はなにも言いません。……資本主義は道徳的ではありません。ましてやそれは反道徳的でもありません。資本主義は……非道徳的なのです」(アンドレ・コント=スポンヴィル『資本主義に徳はあるか』)     * ノーベル賞委員会は二〇〇六年のノーベル平和賞にバングラデシュのグラミン(農村)銀行と、その創設者であるムハマド・ユヌス博士を選出した。「マイクロクレジット」と呼ばれる、貧困者向けの無担保少額融資によって「バングラデシュの貧困撲滅に貢献しただけでなく、世界に貧困金融のモデルを示した」ことが受賞理由である。 一九七二年、バングラデシュの独立とともに米国から帰国した少壮の経済学者、ムハマド・ユヌスは、大学で経済学を教えながら、七四年の大飢饉によって数百人単位で死んでいく国民を目の当たりにした。学問の無力を感じつつ、みずからのポケットマネー二十七ドルを元手に、農村の貧しい人びとを相手にマイクロクレジットを始める。 世界規模で広がる貧困撲滅のシンボルとして、ユヌスの立志伝は、クリントン前大統領やカーター元大統領ら米国の民主党リベラル派などによっても評価され、九〇年代後半にはすでにノーベル平和賞の有力候補に挙がっていた。それだけに、今回の受賞に意外感はない。注目すべきなのは、貧困脱出のエネルギーを、銀行業という、最も資本主義的な手法のなかに見出したことにある。

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