毎年、この季節が辛い――横田早紀江さんは言う。一九七七年十一月十五日、当時十三歳のめぐみさんが拉致されてから、三十回目の秋がめぐってきた。 そして、めぐみさんの四十二歳の誕生日でもある十月五日、ドキュメンタリー映画「Abduction The Megumi Yokota Story(邦題:めぐみ――引き裂かれた家族の30年)」の試写会が東京で開かれた。「拉致問題をわかってもらうために、意義ある映画。今日の試写会は良い誕生祝い」と語る横田滋さんが「全面的に信頼できる人」と語るのが、この映画を監督したカナダ人クリス・シェリダン、パティ・キム夫妻だ。 きっかけは、二〇〇二年九月十七日の小泉首相(当時)の訪朝を伝えるニュースだった。「拉致被害者の中に十三歳の少女がいたことに驚いた。さらに、私たち自身が報道の仕事をしていながら、拉致問題を全く知らなかったことにショックを受けたのです」とシェリダン氏。 ある日、下校途中の娘が外国の工作員に連れ去られるという「普通の銀行員とその妻」の身に起きた、「小説や映画をも凌ぐ現実の悲劇」が夫妻の頭から離れなくなった。「資金はなかった。でも、クレジットカードを手に、『これで映画を撮ろう』と決めたのです。横田夫妻に初めて会った時、二人の美しさと娘への愛情に感動し、『主人公はこの二人だ』と確信した」とシェリダン氏。

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