新聞記者の筆になる本を読みながら、自分にもそれが書けるだろうかと考えている瞬間に気づく。同じ環境が与えられれば書けるかなと思うこともないではないが、同じ仕事はとてもできないとため息をつかされる方が圧倒的に多い。『内部――ある中国報告』『通貨烈々』『アジア太平洋フュージョン』『同盟漂流』と続いてきた著者、船橋洋一氏のノンフィクションを読むたびに深いため息をつかされてきた。北朝鮮の第二次核危機を扱った今回の大著『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』の読後感もそれである。 十月九日の北朝鮮の核実験は世界に衝撃を与え、国連安全保障理事会は一週間の内に経済制裁を明記した決議一七一八を全会一致で採択した。そして、本書刊行直後の十月三十一日、米国、中国、北朝鮮は北京で高官協議を開き、北朝鮮の六カ国協議復帰で合意した。 事態の展開はなお予断を許さない。本書は刻々と動き続ける国際政治の現場に読者をいざない、考えさせる。現代を生きるジャーナリストの著作で、これほどのエンターテインメント性と深さを兼ね備えた作品は、世界を見渡しても、そう多くはないだろう。とりわけ今回の著作は、『ワシントン・ポスト』紙のボブ・ウッドワード記者を意識したような筆致を感じさせる。英語力、粘着力、人脈力を総合した取材力がその基礎をがっちり固めている。

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