台湾選挙を揺るがした「日本皇民論争」とは

執筆者:野嶋剛2014年12月4日

 台湾の統一地方選が11月29日投開票され、与党の国民党が歴史的とも言える大敗を喫し、馬英九政権は極めて大きなダメージを受けた。12月3日に馬総統は敗戦の責を負って党主席を退いている。その概要についてはすでに分析記事を書いたが(「台湾『国民党歴史的惨敗』の衝撃:『筆頭戦犯は馬総統』」2014年12月1日)、ここでは今回の選挙で「日本」が隠れた争点となった現象について考えてみたい。

 

台北市長「当選の理由」

 台北市長に当選した無所属候補の柯文哲氏は「異変」の立役者となった人物だ。その柯文哲氏が当選後、メディアに「当選の理由」を問われたとき、「日本皇民論は確かに(国民党の敗北にとって)大きかった。あれで本土の藍(国民党陣営)の票がそっくり逃げてしまった」と語っていたことに驚いた。

 選挙期間中に起きた「日本皇民」論争は、日本のメディアではほとんど報じられていないので、まず簡単に説明しておきたい。

 台北市は本来、国民党が強い地盤である。今回、国民党の長老・連戦氏の息子で、企業経営の経験がある連勝文氏が国民党から立候補した。野党の民進党には勝てそうな候補が見当たらず、外科医で政治素人の無所属候補・柯文哲氏に相乗りする形を取るしかなく、誰もが連勝文氏の楽勝を予想した。

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