教訓を忘れた土地バブル「黒い宴」の先の断崖

執筆者:伊藤博敏2006年12月号

不動産ファンドが大都市の地価を押し上げ、個人は物件購入に走り、地上げ屋も跋扈する。一寸先の断崖に思い致すことなく――。 東京・港区の六本木交差点近くに、周囲の喧騒が信じられないほどの“沈黙”が支配する一帯がある。 円形の中庭を低層のマンションと商業ビルが取り囲み、それぞれが渡り廊下で結ばれた不思議な形状で、入居者はほとんどいない。時折出入りする男たちの雰囲気が、静かな中に緊張感を漂わせている。 五棟の建物を総称して「六本木TSKビル」という。暴力団組織の旧東声会を率いた故・町井久之の牙城。「日本の黒幕」といわれた児玉誉士夫の盟友にして韓国政府に太いパイプを有した町井は、ここを拠点に表裏の勢力に睨みを効かせ、プロレスなど興行の世界でも名を売った。 その町井の死から四年。韓国外換銀行が五百億円もの債権を持つこの物件を入手しようという業者はなく、権利関係の複雑さゆえに国税当局すら手をつけられなかった敷地千二百坪の「TSKビル」の所有権が、今年七月二十八日、ようやく「都市アーバン開発」に移った。競売での落札価格は二百五十二億五千万円。同社は四年前に設立されたばかりの有限会社にすぎず、いずれかの勢力のダミーと目されている。

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