『日本の防衛』防衛庁 1970年刊 一九七〇年(昭和四十五年)十月、日本初の防衛白書(『日本の防衛』)が刊行された。各種の「附表」を含めても全九十四ページ。当時すでに日本は政府関係白書の王国と目されていたが、その中でこの白書は外見的に見すぼらしい存在だった。定価はついていない。定価なしで見すぼらしい外見。それは、この白書の作成主体、つまり防衛庁の当時の雰囲気になんとなしに合っている感じだった。 その後五年間、防衛白書の刊行はなかった。が、七六年に第二代が刊行されてからは毎年制が定着、今年八月に第三十二代が発表された。体裁も変型A4と大判化し、ぶ厚く、重く、気楽に持ち歩ける代物ではとてもない。色彩豊かな堂々たる外見。三十六年間の防衛白書のこの変貌を慶賀すべきか否か。 ここに初代防衛白書を取り上げる理由は、その外見でなく内容にある。本稿が機縁で関心を持たれる向きには、是非、防衛庁サイトから初代防衛白書の全文を入手し、一読されるよう、お薦めする。インターネット時代の今日では、全文が難なく読める。そこで、「第1部・現代社会における防衛の意義」を「1・新しい日本の進路」、「2・平和の希求と世界の現実」、「3・安全保障のための人類の努力」、「4・国を守る心」と読み進むと、時代は冷戦期からポスト冷戦期へと変わっていても、読者は今日の日本にも通じる多くの議論を聴く思いがするのではあるまいか。もっとも、この「思い」にも二種があろう。一つは、往時の時代背景の記憶がない若い世代のもの。もう一つは、その記憶が働く世代のもの。

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