ベトナムで日米中露が繰り広げた先陣争い

執筆者:松本毅2007年1月号

たしかに将来性は豊かだが、ベトナムの交渉術はしたたかだった。手玉に取られてばかりではいけない。[ハノイ発]「まさにベトナムへの求愛合戦」。日本外務省幹部がこう話すように、十一月十八、十九日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開かれたベトナムの首都ハノイでは、日米中を軸にしたベトナム争奪戦が繰り広げられた。 首脳会議への出席とあわせて、日本、米国、中国、ロシア、チリの五カ国の首脳が公式訪問を行ない、各国ともベトナムとの貿易拡大や大規模投資、開発支援などを相次いで打ち出した。かつてカンボジア侵攻で世界から完全に孤立した時代を知るベトナム外務省OBは「わが国も人気者になったものだ」とやや高揚した表情で語っている。「中国より先に日本へどうぞ」 中国の攻勢はとりわけすさまじかった。中国は事務レベルでの事前交渉で、胡錦濤国家主席の公式訪問の日程を公式訪問国の中でトップになるよう調整するようにベトナム側を説得。首脳会議が始まる一週間も前に唐家セン国務委員がベトナム入りし、ファム・ザー・キエム副首相兼外相に「(両国の首脳会談では)中国とベトナムの友好関係を世界に強くアピールしたい」と持ちかけた。中国はベトナム北部ハイフォンの石炭火力発電所や中南部でのボーキサイトの共同開発およびアルミナ生産工場の建設など、中国輸出銀行を通じた融資を含めて総額十六億ドルを超える支援を打ち出したほか、自国の電力供給が不安視されているにもかかわらず、ベトナムへの電力の安定供給を約束した。

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