言うは易く行うは難しい「断らない医療」

執筆者:髙本眞一2015年1月3日

 先日、17年ぶりに当直をしました。病院長になって、年目のことです。当院では、「断らない医療」を掲げています。しかし、毎日の医事課からの報告書を見ると、患者さんを断っている場合がありました。責任者に聞いてみると、それぞれの事例で、問題がある患者さんだった、あるいは、若手の医師のみに当直が集中しがちで十分なマンパワーを確保できていないために受け入れられなかったなどの説明があるのですが、なんとなく納得がいきません。

「患者さんに問題がある」とは実際にどういうことなのか。マンパワーが足りないのならば、もっと志願者を増やせばいい。救急医療の現場の実態を知るため、若い人に当直が集中している現状に一石を投じるためにも、かけ声だけでなく、自ら率先して当直を行うことを思い立ちました。ここまで読んで、「迷惑な上司だ」と思われる方がたくさんいらっしゃるだろうことは、素直に受け入れます。本当に迷惑だとわかっていましたが、現場を見ずに、物申すのはもっと職員にとっては迷惑だと判断しました。

 実は、病院長就任から私が今回の当直を断行するまでには、紆余曲折、試行錯誤がありました。

 まず、私が院長に就任時、表向きに三井記念病院は、2次救急受け入れ施設として認定されていましたが、救急医療には1次、2次、3次の段階に分かれています。日本救急医学会ER検討委員会によると、1次救急:軽症患者(帰宅可能患者)に対する救急医療、2次救急:中等症患者(一般病棟入院患者)に対する救急医療、3次救急:重症患者(集中治療室入院患者)に対する救急医療となります。実際のところ救急医療を余り熱心に行っていませんでした。かろうじて、かかりつけの患者さんが訪れたり、循環器内科の医師に熱心な者がおり、循環器疾患の救急患者がいる場合には、当院に運ばれてきていました。

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