最高権威にもなすすべないイラクの絶望

執筆者:出井康博2007年1月号

イラク・シーア派の最高権威シスターニ師からの書面回答、そしてイラク人の肉声に、絶望的な現状を探る。[アンマン発]〈マリキ政権は治安回復のために良好な努力を払っている。しかしながら、政治過程に参加した者及び不参加だった者など様々なイラク人が、暴力を否定し、相違の解決のために平和的対話を採用するとの明確な決定をしなければ、マリキ政権に平和回復のための顕著な進展は成し遂げられない〉 イラクで過半数を占めるシーア派の最高権威、アリ・シスターニ師は慎重に言葉を選びながらも、マリキ政権の限界を示唆する。メディアとの会見を一切拒否している同師が、書面という形であれ、自らの思いを披瀝するのは極めて異例のことだ。 シスターニ師はイラク国内の政治勢力と一定の距離を置きつつ、シーア派の精神的支柱としての存在感を示してきた。イラク戦争の開始時には、米軍の侵攻に抵抗しないよう「ファトワ(宗教見解)」を出し、フセイン政権の打倒に影響力を発揮。二〇〇五年一月、戦後初めて行なわれたイラク国民議会選挙では投票を呼びかけ、自らが後ろ盾となって誕生したシーア派議員の連合組織「統一イラク同盟」が政権を握る流れをつくった。回答を避けた質問に

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