二代の「経営者不作」が日興を粉砕した

執筆者:喜文康隆2007年2月号

「(私は)興業証券を粉々にして、叩き売ってしまうかも知れないのですよ」(清水一行『小説兜町』)     * 日興コーディアルグループの不正会計問題が、昨年末に急転した。問題が表面化した十二月中旬には「一社員の問題」として金融庁の責任追及に反撥していた金子昌資会長と有村純一社長が、揃って引責辞任したのだ。 課徴金も満額支払っており、全面敗北といえる。事と次第によっては刑事責任まで問うという金融庁の強い姿勢が感じられる決着だった。シティグループとの提携の行方や上場廃止の可能性を含め、日興コーディアルグループは創業以来、最大の危機を迎えている。 日興コーディアルグループの危機は、二代続いてコモンセンス(常識)の欠落した経営者を戴いた結果である。事件後のマスコミの報道も、会計という専門的な分野の説明に追われ、この危機を十分に伝えているとはいえない。 誤解をおそれずにいうなら、日興問題の本質は、公開企業の行動を律すべき日本を代表する証券会社が、堀江ライブドアがやっていたような利益の水増しを、ずっと以前から大規模にやっていた、ということの異常さにある。 有村は不正会計を「一社員のミス」という言い訳で逃げ切ろうとしたばかりか、公認会計士の了解を得ていることを免罪符のようにしてきた。しかし、企業のトップが問われるのは、法律家や公認会計士の判断をクリアしているかどうかだけではない。より重要なのは、その行動原理がいかがわしいか、いかがわしくないか、である。金子と有村には経営者の資質が決定的に欠落していた。

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