モロッコの首都ラバトの王宮で、国王モハメド六世の専属料理人をしている大沼秀明さん(三二)は、正月が明けた一月上旬、休暇で一年ぶりに、奥さんの栄子さんと故郷の山形県上山市に戻った。モロッコに行くときにはいなかった長男の卓稔ちゃん(五カ月)も一緒だ。 大沼さんがモロッコ国王の専属料理人となった経緯を聞くと、改めて人と人のつながりの妙に感じ入ってしまう。直接のきっかけは一昨年十一月、モハメド六世の来日だった。 国賓として来日した国王は元赤坂の迎賓館に四日間、宿泊したが、このとき国王の食事の賄を担当したのが大沼さんだった。当時、東京・銀座のレストランでシェフをしていた大沼さんが大役を引き受けることになったのは、ルシェヘブ駐日モロッコ大使の依頼だった。 大沼さんは二〇〇一年から三年半、カナダのオタワで日本大使の公邸料理人を務めた。この時、ルシェヘブ大使は駐カナダのモロッコ大使で、日本大使公邸に招かれる度に、大沼さんの作る日本料理を堪能していた。 ふつうはそこで終わっていた関係だ。しかしルシェヘブ大使が駐日大使に任命されると、前後して大沼さんも帰国。国王の来日が決まると、大使は迎賓館で国王の食事の賄をしてくれないかと頼んだ。大使公邸にはモロッコ人の料理人がいるのに、なぜ大沼さんだったのか。

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