“華麗なるフォード一族”が遠ざける再建

執筆者:井上誠2007年2月号

雇われCEOが見たのは、あまりに低レベルな“名門企業”の姿だった。君臨する創業家が手回しよく準備したものといえば――。 一月七日。米自動車産業の聖地、デトロイトで開かれた恒例の北米国際自動車ショー。フォード・モーターの社長兼最高経営責任者(CEO)、アラン・ムラーリー氏は内外のメディアに幾重にも囲まれ、何度も同じ質問に答える羽目になっていた。「英ジャガーは売却対象ではない」。 この光景は既視感がある。昨年は経営危機だったゼネラル・モーターズ(GM)のリチャード・ワゴナー会長兼CEOが「全米で展開するブランドは縮小するのか」との質問攻めにあっていたのだ。 一方、GM、フォードを脅かす二〇〇七年の“主役”は、またも姿を見せなかった。昨年、トヨタ自動車の渡辺捷昭社長は、「GMを刺激したくない」との政治的判断から、デトロイトにいながらもあえて“米国メディアデビュー”を見送った。GMは紆余曲折を経て何とか経営危機をしのいでいるが、今度はフォードが危機に陥ったうえ、米国内での年間新車販売台数でトヨタはフォードを抜き第二位に浮上する。 囲み取材に対し防戦一方のムラーリー氏には、後述する、昨年九月に就任した際の「ある雇用条件」が、早くも脳裏に浮かびつつあったのではないか――。

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